論文

「真の地方分権」を実現させるには改憲が不可欠だ

少子高齢化が進み成熟した社会では個性ある地域づくりが必要だ。
憲法制定から六○年。見直し時機を迎えている

わが国の明治以来の中央集権体制は、高度経済成長の時代までは有効に機能し、日本の発展をもたらしてきた。その反面、画一的な社会を形成し、地域の個性を喪失させるとともに、さまざまな機能の大都市集中をもたらした。高度経済成長が終わり、各種のインフラ整備が進んだ現在、中央集権は弊害のほうが顕著になり見直しが迫られている。低成長下で少子高齢化が進み社会が成熟化するなかでは、住民が生活の豊かさを実感できる個性ある地域づくりを進める必要があり、それには徹底した地方分権が不可欠である。
こうした認識に基いて、二○○○年には地方分権改革が実行に移されたが、この改革のテンポは遅く、権限面でも財源面でも極めて不十分な点を残している。特に、今般の「三位一体の改革」をめぐるやりとりで明らかなように、中央省庁の抵抗が強く、「分権型社会一の実現はまだ遠い目標と言わざるをえない。
また、国。自治体の借金が累積し、肥大化した「政府の失敗」が顕著になる一方で、NPO、ボランティアなどの市民活動の幅が広がっており、もはや政府機関だけで「公共性」を担う時代ではないことが明らかになっている。自治体を含む政府の再構築が、避けて通れない課題になっているのだ。
日本の現状と将来を考えると、こうした課題の解決には、一刻の猶予も許されない。もはや法律や制度を一つ一つ変えていくのではなく、まさに「この国のかたち」の大改革としてできるだけ短時間で成し遂げることが必要だ。
中央省庁の手で法律や補助金制度にメスを入れることも大切だが、まずそれらの基盤をなす国家のしくみ自体を見直し、国民的な論議と合意の下で速やかに改革する必要がある。  二十一世紀を迎えたいま、私は、まさに「この国のかたち」を定め直すために、憲法改正が必要になっていると思う。改憲についてはさまざまな議論が行われているが、相変わらず、論議の中心は戦争放棄を定める九条だと言っていい。私は九条改正の論議も重要だと考えているが、知事に就任して以来一年半、地方という現場からこの国を見つめてきたなかで、地方自治のあり方を憲法に規定し直し、真に国民本位を実現する「地域主権の分権型国家」をめざして、国と国民が確実に改革を進められるようにすることこそ重要だという思いを強くしている。
ご存じのとおり、現行憲法でも地方自治の章(八章)を設けていくつかの規定を置いている。しかしながら、「地方自治の原理が不明確だ」「国と自治体の役割分担が明確でない」、あるいは「自治体の自主財政権に関する規定が手薄だ」といった不備が指摘されている。憲法制定から六○年、地方自治が変貌を遂げるなかで、これらの現行規定は見直しの時機を迎えているのではないか。私は、これらの点を改善することとあわせて、憲法に「地域主権の国家」を位置づけるために、「小さな政府」「地域主権の確立」「補完性の原理」「財源保障・財源調整」「道州制」の五つを基本理念として地方自治に関する規定を改定し、「国のかたち」を根本から組み替えることを提案したい。
憲法改正に係るさまざまな提案には、考え方を総論的に示したものが多いが、私は、地方自治を担う現場の実務家として「条文レベル」の具体的な視点を示すこととした。法制面の専門家からは、「憲法の規定には細かすぎる」「別の法律で定める内容だ」等々の指摘をいただくことになるだろうが、提示した視点は改正の要素としてすべて議論を喚起したい事項であり、具体的に示さなければ議論は始まらないと考えた次第である。また、私は、現職の知事であり、現行の憲法を遵守するのは当然であるが、国民の将来のために、地方自治に関する憲法改正の議論を呼び起こすことも、政治家としての使命ではないかと思い、あえて問題提起したい。

小さな政府(効率的な政府)
地域主権の確立
補完性の原理
財源保障・財源調整
道州制

小さな政府(効率的な政府)

現在、低成長の経済に移行したにもかかわらず、政府(国・地方を含む)は肥大化したままであり、GDPの約一・五倍という主要国の中でも突出した借金残高を抱え、その解決の目処が立たないという深刻な状況に陥っている。このままでは、少子高齢社会、人口減少社会を迎えたこの国にとって、明るい未来はない。そこで、「小さな政府」の原則を明確にして、政府機能の縮小・再編を図ることが緊急な課題となっている。「小さな政府」をめざす改革は、国民の痛みを伴う改革であり、最も困難な改革であろう。しかし、だからこそ国家のあり方をうたう憲法において、「国家のかたち」の第一の原則として「小さな政府一を位置づけたらどうかと思う。一方、前述のとおりNPOなどの市民活動が活発になっており、ますます複雑・多様化する行政にとってなくてはならないパートナーとなっている。そこで、立法・行政の原則として、公共的機能は地方自治体を含む政府が独占するのではなく、国民の参画と協働によって担われるものであること(市民協働の原則)を明確にする必要があろう。「小さな政府」とは、単に政府負担の軽減を図るものではなく、公共的機能の担い手を多様化し、そのあり方を見直すという課題なのである。そこで、次のことを提案したい。


【前文】に次の要素を盛り込む
・国及び地方自治体は、「地域主権」の原則に立って、「小さな政府(効率的な政府)」の実現をめざすこと。
・ 国及び地方自治体は、公共的機能が国民の参画と協働によって担われること(市民協働の原則)に立脚して、立法及び行政を実施すること。

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地域主権の確立

地方分権一括法の制定により、機関委任事務が自治事務となり、法的には、国と地方自治体は対等の関係になった。しかし、一括法施行以来四年間の現実を見ると、①機関委任事務が自治事務となり権限が移譲されても、それに見合った自主財源がない限り自治体の実質の自由裁量権は増えないこと、②注制度上は対等であっても、実質的には補助金や省令等による国の関与が地方を縛っていること、③国も地方自治体自身も地方分権の意識が希薄であることなどにより、地方分権がほとんど進んでないことがはっきりしてきた。
また、地方分権一括法の制定時に比べ ①市町村合併の進展や中核市・特例市の誕生により基礎自治体の規模と権能が大きくなっていること、②都道府県合併や道州制の議論が急速に活発化していること、③NPOの増加に伴い、さまざまな行政分野で民と官との協働が模索され始めたことなど、地方自治の基盤が大きく変化しつつあり、これらの変化には今後さらに拍車がかかると思われる。
こうした状況を踏まえて、現行憲法下でわかりにくいと言われている「地方自治の本旨」を補完して、地方自治の基本原則を明確化し、地域主権を具
体化する方途を示すため、次の要素を盛り込んだ規定を置くことを提案したい。


【地方自治の基本原則とその保障】
①地方自治は、その区域内の住民の直接又は間接の意思に基づき、住民の負託に基づく地方自治体によって実現されること。
②地方自治体は、様々な手法により住民の意向を把握し、行政運営に反映するとともに、住民に対する情報の提供に努めなければならないこと。
(②の補足)基礎的自治体の規模が大きくなることを想定すると、住民自治の拡充が一層重要となるため、基礎自治体には、地域の適性に合わせた住民自治の振興とともに、「受益と負担」の関係が見えるよう、自治体に情報提供を義務づける必要がある。
③地方自治体は、その区域内の事務を、自らの責任と判断において総合的に行う権利を保障されるべきこと。
④国は、地方自治体の事務に関し不当に関与してはならないこと。
⑤地方自治に関する法律は、地方自治体の自主性及び自律性を最大限尊重し、基本的な事項を定めるものでなければならないこと。
⑥地方自治体の組織、運営及びその財源に関する事項は、法律で定める基本的事項に則して、条例でこれを定めること。
(④、⑤、⑥の補足)地方自治に関する法律は、基準を示す「枠法」として定めることとし、具体的な内容は、条例に譲り、自治体の自由裁量を尊重し、独自性と創意工夫が生かせるようにする必要がある。


【地方自治体の権能と自治基本条例】
①地方自治体は、条例を制定し、事務を執行し、財政を処理する権能を有すること。
②地方自治体は、条例を制定する場合には、条例が法律の趣旨に適合するようにしなければならないこと。
③地方自治体は、当該自治体の組織及び運営に関する基本条例(「自治基本条例」)を定め、これに則してその他の条例を制定し、事務を執行し、財政を処理すること。
(③の補足)最近の地方分権改革に伴い、自治体運営の理念や原則を総合的に定め、
「自治体の憲法」とも言われる自治基本条例を制定する動きが広まっているが、全ての自治体が自治基本条例を定めることが理想的である。また、この自治基本条例に他の条例よりも強い効力(優先効)を与える必要がある。


【国の立法。・政への参加権】
①広域自治体及びその連合体は、地方自治に影響を及ぼす法令の制定改廃を、内閣に請求することができること。内閣は、この請求があった場合で必要があると認められるときは、法律の制定改廃の提案、または命令の制定改廃を行わなければならないこと。
②基礎自治体は、前項の請求を広域自治体に請求することができること。
③一の地方自治体のみに適用される特別法については、現行規定と同様に、その自治体の住民投票においてその過半数の同意を得なければならないことを明記すること。
【国の自治権侵害に対する司法救済】
地方自治体は、自治権を侵害するような法令の制定改廃又は国の決定に対し、高等裁判所に訴えを提起することができること。

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補完性の原理

地域主権社会を確立するためには、国、広域自治体、基礎自治体が担う行政事務の役割分担をわかりやすい原則の下に明確化しなければならない。
「補完性の原理」は、国際的な地方自治保障の動きの中で注目されてきた理念であり、より下位の単位に事務・権限を優先的に配分しようという理念である。わが国においても、「市町村優先の原則」を打ち出したシャウプ勧告以来、既に理念としては同様の原則によって地力分権等が進められており、「補充性の原理」は国民のコンセンサスを得やすい理念であると思われる。研究者の中には、「法的概念として位置づけるには、まだ暖昧な理論であり、特に、住民自治にまで対象が及ぶのか、上位の単位が下位を助けるとして集権的に動く可能性もある」と指摘し、法的に位置づけることに否定的な意見もある。しかし私は、現実問題として「市町村最優先」は徹底されていないとの認識があり、ここで憲法にわかりやすく「下位の単位を優先する」理念をうたい、改めてその原則を強調することが必要であると考える。


【前文】に次の要素を盛り込む
「補完性の原理」に基づき、国・広域自治体・基礎自治体における事務の役割分担及び財源配分を明確にし、住民に身近なところで意思決定がされる社会の実現を目指すこと。
【国及び地方自治体の役割分担に関する規定の視点】
①基礎自治体は、補完性の原理に基づき、その区域内の事務を優先的に行うこと。
②広域自治体は、次に掲げる事務を行うほか、補完性の原理に基づき、基礎自治体が処理することが困難な事務を処理するものとすること。
・基礎自治体の区域を越えた対応が必要で、かつ関係基礎自治体間の調整では的確な対応が困難な事務
・基礎自治体を包括する自治体として担うにふさわしい事務
③国は、次に掲げる事務を行うほか、補完性の原理に基づき、広域自治体が処理することが困難な事務を処理するものとすること。
・国際社会における国家の存立に係わる事務
・全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動に関する事務
・全国的な規模又は視点に立って行わなければならない施策、事業の実施

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財源保障・財源調整

地域主権の実現には、地方自治体の財源面での自主・自立が必須条件であり、そのことによって、住民が「受益と負担」の関係を実感できるようにしなければ地方自治の真の意義はない。そこで、憲法で、地方自治体の財源保障を明記することが不可欠である。
実際に、地方分権一括法施行後の経過によって、権限が移譲されても、財源の移譲がない限り実質の地方分権は実現しないことが改めて証明された。また、三位一体改革の動向を見ると、最も地方寄りである総務大臣の構想でさえ、国税“地方税を一二にすることをめざしているにすぎず、このまま国主導で税財政改革を進めても、地方と国の事務量に見合った適正な税源配分という望ましい姿が実現されることは期待できないのが現状である。こうした現実の問題からも、望ましい税源配分の改革を進めるには、憲法で地方自治体の財源について明確に保障することが必要と考えた。
さらに、自主財源を保障するうえで、税源偏在による地域間格差をどのように解消するのか、いかなる「財源調整」を行うのかが、税制と一体のものとして構築されていなければ完結した制度にはならない。そこで私は、道州制を前提とした「財源調整」のあり方も憲法に規定することを求めたい。


【自主財政権の保障に関する規定の視点】
①地方自治体には、その事務を処理するため、自由に支出できる十分な自主財源が保障されなければならないこと。
②地方自治体は、自主財源を確保するため、条例の定めるところにより課税権を行使することができること。
(①、②の補足)地域主権を確立するためには、地方自治の経費を何の財源で賄ってもよいというものではない。受益と負担の関係を明確にすることと、自治体の自主性を担保できることの二つの要件を満たす財源は「税」でしかなく、基礎自治体の財源こそ「税」を中心にしなければならない。したがって、所得と消費にかかる税のほとんどを基礎自治体に移譲するイメージで税体系を再構築する必要がある。
私は、地方交付税や地方譲与税により国が財源を配分・補填する制度はまったく想定していない。両制度は廃止し、当然、その分の税源移譲を受けることを前提にしている。
③広域自治体相互の財政格差を是正するため、各広域自治体は、必要最小限の範囲で財源を拠出し合い(基金等を設置し)、それを財源として、第三者機関等が財政調整を行うこと。
(③の補足)広域自治体間の財政調整については、現行制度のように国が行うのではなく、広域自治体同士が財源を拠出し合い、基金等を設置して横断的に調整行うものとしたい。ただし、その調整は必要最小限にとどめるものとし、広域自治体が選出した第二者機関(自治財政調整委員会等)において行うものとしたい。
④広域自治体は、基礎自治体の自主財源を保障するため、その区域内の基礎自治体の財源不足の是正その他必要な措置を講じなければならないこと。また、この措置は、基礎自治体の自主性を損なうものであってはならないこと。
(④の補足)補完性の原則により、まず基礎自治体の自主財源が最優先で保障されなければならない。そこで、基礎自治体間の財政格差については、広域自治体内でも偏在性の大きい「法人関係税」を財源の中心として、広域自治体が基礎自治体の財源保障を行う。こうして基礎自治体に配分された「法人関係等の税」は、当該基礎自治体の自主財源として扱うこととする。基礎自治体の財政保障については、基礎自治体ごとに広域自治体との役割分担が大きく異なるため(指定都市、中核市等異なる)横断的な調整が難しいこと、中山間地域等の自治体の財政は広域自治体が総合的に支援する必要があることから、広域自治体が責任を持つこととし(広域自治体の機能とし)、自己の財源をもとにこれを支えることとしたい。ただし、この財政支援が基礎自治体の自主性を損なうものであってはならないので、その旨を明確にするとともに、実際に制度化する場合は第三者機関による審査等の手続きを定めることが必要となろう。

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道州制

最後に、憲法改正と道州制との関連について述べておきたい。道州制は現行憲法のもとでも実現可能、連邦制は憲法改正が必要と法解釈上言われているが、そうした法技術論ではなく、憲法が「この国のかたち」を定めるものである以上、改憲に際して、広域行政をどのような行政体が担うのか、想定しておく必要があろう。ただ、広域自治体については議論が急速に活発化しているものの、その望ましいかたち(都道府県合併、広域連合、道州制、連邦制)や所管エリアなどについて諸説入り乱れ、混沌としているのが現状である。そこで、私は「道州制」を大まかに次の要素を持つ広域自治体として想定した。
①の基礎自治体だけでは対応できない広域課題や、州で実施したほうが効率的である事務を執行する広域的な行政単位とする。
②いわゆる「連邦制」を形成する州ではなく、司法権は持たないが、区域内の条例制定権と課税権は持つ。
③現行の都道府県の権限にとどまらず、国の地方支分部局を取り込んで、国から権限移譲を受けた広域自治体とする。
④規模的には、現在の「○○地方」を中心に、地域によっては「地方」を再編した五〜八程度の広域自治体とする。
⑤住民の直接選挙による議会を持つ。首長は、直接選挙の場合とそれ以外の場合を選択できるものとする。
⑥最も重要な役割として、区域内の法人関係税を主な財源として、基礎自治体間の財源調整を行う。
⑦州の財源は、州ごとに、区域内の基礎自治体との関係でさまざまな仕事配分とさまざまな税源配分を行い、その仕組みを州の裁量で構築して賄う。
昨秋に行われた衆議院選挙において道州制の導入検討を公約に掲げる政党が現れ、その後小泉首相は北海道を道州制のモデル地区とする方針も示した。私も、強い自治権をもった道州がお互いに善政競争によって日本を発展させるという道州制導入が、以前からの持論である。昨年の十一月に開催された八都県市首脳会議の場で、私は地方自治法に定められた「広域連合」制度を活用した「首都圏連合」構想を提案したが、この都県市の連合体である首都圏連合が将来発展し自立した行政機構に成長すれば、道州制の受け皿にもなりうると考えている。したがって、憲法改正の際には、新しい国のかたちとして道州制を想定し、次のように地方自治体の種類として規定したい。


【地方自治体の種類】
①地方自治体は、基礎自治体と広域自治体とする。
②基礎自治体は、市町(村)とする。
③広域自治体は人道又は州とする。
以上の提案は、「地域主権の国家像」を求める私個人の、ひとつの試論である。わが国の政治行政システムが根本的な行き詰まりを迎えていることは、多くの国民、論者が認めるところだが、ではどういう方向に向かって改革を行うかについては、いろいろな意見があろう。現に、三位一体の改革をはじめ、道州制導入や市町村合併の是非や進め方についても、国と地方の意見対立だけでなく、地方の首長間でも意見の相違ばかりが目立つ。私は、近い将来に憲法を改正するのであれば、これらの改革がめざすべき「この国のかたち」を明確に憲法に位置づけることを提案したいのである。と同時に、そうした憲法改正については、一部の専門家や政治家だけでなく、まさに国民全体で議論していくことを望みたい。この小論がそうした議論に向けて一石を投じるものになれば、望外の幸せである。

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