論文

「羽田・成田リニア新線」構想
二大空港を一体化して首都圏に国際ハブ機能を

ジャパンパッシングの危機
羽田空港と成田空港を一体に
首都圏共通の最重要課題

ジャパンパッシングの危機

いま日本人の生活圏や経済圏は、日本国内にとどまらず広く世界に広がっている。そして、経済発展を遂げた日本は、諸外国にとって、人的・物的交流の重要なパートナーである。
そうしたなか、わが国の航空政策の失敗による重大な問題が顕在化している。それは、アジア各国の経済成長や大型空港の整備が進むなかで、わが国や首都圏が晒されている都市間競争や国際経済競争に大きなダメージを与えかねない経済損失の危機、航空運輸面における「ジャパンパッシング」の危機である。
もちろん政府もそうした危機感はもっているのだろう。今年五月に、安倍首相が議長を務める「アジア。ゲートウェイ戦略会議」がまとめた最終報告において、アジア経済の活力を取り込むための「航空自由化(アジア・オープンスカイ)に関する構想を打ち出し、六月の「骨太の方針2007」に盛り込まれた。
しかし、その構想の内容を見ると、首都圏空港については「当面、戦略的に活用するとともに、将来の容量拡大等をにらみ、さらに自由化について検討する」とされるにとどまり、きわめて切迫感の乏しいものとなっている。外国航空会社から最も参入要望の強い首都圏空港の離発着枠がすでに満杯であるため、こうした現状追認型の構想にならざるをえないのだろうが、首都圏における空港機能の強化・充実は、中長期的な課題などとしてのんびり構えている問題ではない。これ以上、わが国の航空運輸面における国際競争力を低下させない
ためにも、最優先で対策を講ずべき国政上の最重要課題なのである。
本稿では、首都圏における空港機能の課題とその打開策を提案したい。
現在、成田空港では、二○一○年三月供用開始を目標に平行滑走路北側延伸工事が行なわれており、羽田空港では、二○一○年十月供用開始を目標とする再拡張工事に本年三月末に着工した。
しかし、現在の両空港の整備は、相変わらず「国際線は成田、国内線は羽田」という国の硬直的な考えのもとで進められている。二○○五年四月に示された国の考えでは、再拡張後の羽田空港は発着回数が年二九・六万回 (一日八一○回)から年四○・七万回(一日一二四回)に一・四倍に増えるものの、このうち、国際線には、国内線を充てたのちの余裕枠である三万回程度しか割り当てられない。
しかも、対象となる国際線は、発着する国内便の最大距離である一九四七キロメートル(羽田—石垣島間)を一つの目安とした二○○○キロメートル範囲内の近距離国際路線とされているのである。これでは、羽田からは東アジアの主要都市のうち、上海とソウルにしか行けないことになり、何のための再拡張なのかわからない。
首都圏の経済が国際競争のなかで勝ち抜いていくためには、空港の役割分担戦略づくりが勝負である。首都圏は三四○○万人の人口を擁し、国際的な活動を繰り広げている企業が多数立地している。そのため旺盛な空港需要があり、国際的な地域間競争へ対応しなければならない現状を考えれば、両空港の整備が完了しても、首都圏の空港機能は依然として不十分なままである。
首都圏が引き続き世界経済の中心として発展していくには、首都圏全体の空港容量を高めるとともに、羽田空港の国際化機能を強化し、羽田および成田の両空港が、一体的・有機的に機能する国際空港として、その役割をしっかりと分担していくことがきわめて重要なのである。

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羽田空港と成田空港を一体に

具体的なプランを示そう。
国の方針のように、羽田空港は二○○○キロメートル程度の近距離国際路線に限るのではなく、少なくも三○○○キロメートル圏にある北京や台北、香港なども就航路線としていくべきである。
そして、中距離路線であるASEAN諸国を含むアジア・太平洋地域の都市、たとえばシンガポールやホノルル便などにも拡大していけば、乗客の多いいわゆる「ドル箱路線」が羽田空港で離発着することによって、利用客の利便性は格段に高まる。また、深夜早朝時間帯の国際線の積極的な導入や貨物専用便の導入を図り、羽田空港の国際線機能を充実することも必要であろう。
一方で、成田空港には欧米などの長距離国際線を就航させるとともに、両空港へ国内線を乗り入れることによって、それぞれの空港に国内線と国際線の乗り継ぎ機能を確保していくべきだ。羽田空港の国際化によって、成田空港が衰退してしまうのではないかとの懸念があるかもしれない。しかし、それは杞憂だと思う。首都圏に乗り入れたい他国の航空会社は、いまでも四○カ国近くに及んでおり、羽田と成田が一体となって国際ハブ空港として機能すれば、衰退どころか、かえってさらに発展していく可能性が高い。
また、こうした両空港の役割分担は、空港機能の面からも妥当な選択である。一般的に、ジャンボジェット機で北米、欧州等の長距離直行便を運航する場合は、少なくとも三○○○メートル級以上、可能なかぎり三五○○メートル級の滑走路が望ましいとされているが、羽田空港は三○○○メートルしかないため、直接欧米に向かうジャンボジェット機の就航は困難である。成田空港の滑走路は四○○○メートルあるので、必然的に欧米路線は成田空港を利用することになる。
さらに、成田空港は騒音問題の関係で二十四時間化できないため、羽田空港の二十四時間機能を利用して深夜早朝時間帯に需要のある国際線を羽田に就航させることで、両空港の機能に合わせたすみ分けは十分できるだろう。
羽田空港の国際化は、成田空港との役割分担で国際ハブ空港機能を充実させるという意味でもきわめて重要なのである。アジア諸国との国際経済競争のなかで、首都圏の空洞化を防ぎ、アジア経済活性化の役割を果たすため、さらに、空港利用者の利便性向上を図るために、国は一日も早くいまの誤った航空政策を転換すべきだ。
しかしながら、これまで述べた方策だけでは首都圏の空港機能強化策としてはまだ不十分である。なぜなら、両空港が一体的、有機的に機能するための交通アクセスの問題が残るからだ。
そこで提案したいのが、超高速鉄道「羽田・成田リニア新線」の整備である。
これは羽田空港と成田空港の一体性を高め、国際ゲートウェイの機能と国内線ネットワークの中核機能を併せ持つ国際水準の首都空港の実現を図ることをめざし、横浜へ川崎、羽田空港、東京、千葉、成田空港などの首都圏の主要都市等を大深度地下リニアモーターカーなどで結ぶ超高速鉄道を整備しようというものだ。
現在、両空港間は直通バスで七十五分、鉄道では最短でも九十分以上かかる。二○’○年四月の開通をめざす成田新高速鉄道が完成しても七十分程度かかると見込まれ、これに空港での手続きなどの時間を加えれば、アジア地域から羽田空港に到着した人がその日のうちに成田空港から欧米へ飛び立つことはかなり難しい。
首都圏第三空港の整備が長期的課題であり、成田、羽田の両空港体制をかなりの将来にわたって続けていくことが現実の選択である以上、両空港間をできるかぎり短時間で結ぶとともに、首都圏内における成田までの空港アクセスを改善する新しい交通システムを追求していくことは必要不可欠である。
ご承知のように、二○○一年四月に「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法(大深度地下使用法)」が施行され、また、二○○四年二月には「大深度地下の公共的使用における安全の確保に係る指針」が策定された。
この法律によって、土地所有者等が通常使用しない大深度地下の公共的使用に対し、事前の補償が不要になるというメリットがある。地価が高い都市部における交通機関の整備にあたっては、なくてはならない規定であろう。
じつは、すでに大深度地下の使用を前提としたリニアモーターカーの調査が行なわれている。一九九○年三月に発表された、社団法人日本プロジェクト産業協議会が行なった「東京湾臨海部リニアモーターカー構想調査」がそれである。この調査は、横浜のみなとみらい21から羽田空港、新千葉、成田空港に至る約九・八キロメートルを、大深度地下を利用してリニアモーターカーによる最高時速三○○キロメートルの鉄道を走らせようというもので、位置はおおむね現在の高速湾岸線から東関東自動車道沿いに進むルートである。
所要時間は二十七分三十秒であり、現在の三分の一となる。羽田・成田問に限った場合は多くの需要は見込めないものの、幕張、東京ディズニーランド、臨海副都心、みなとみらい21などの主要地点に駅を設ければ一日一七万人程度の需要も見込まれ、五○○○円以下の料金で採算がとれるというものである。
建設費用は、当時の試算で一兆二○○○億円から一兆四○○○億円とされているが、国、関係自治体、事業者の協力を前提に民間資金も導入すれば、捻出は十分可能であろう。
もちろんこの構想を実現するには多くの課題があるだろう。しかし、五○○○円以下の利用料金で首都圏の業務核都市から成田・羽田両空港まで三十分かからずに到達できるとなれば、利用者にとって十分魅力的であり、その波及効果は計り知れない。
さらに、湾岸線だけではなく、臨海副都心付近から支線を延ばし、新宿、さいたま新都心まで延伸すれば、首都圏の主要な業務核都市と両空港が超高速鉄道で結ばれ、かなりの利用客が見込めるだろう。米空軍の横田基地が、将来軍民両用空港になれば、横田までの延伸も考えられる。
また、ホームや車両の一部を一般の乗降客と両空港の乗り継ぎ客とに区分することによって、羽田や成田に到着した外国人が入国手続きを行なわずに、他方の空港で国際線に乗り継ぐことも可能であろう。

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首都圏共通の最重要課題

すでに、リニアを大都市地域に導入するのにあたって不可欠となる大深度地下使用の可能性も具体化している。二○○七年六月十九日、神戸市水道局が実施する大容量送水管整備事業が、大深度地下使用法の全国初の適用を受け、さらに、「東京外かく環状道路(東名高速道路—関越自動車道間)」でも、大深度地下の使用に関する事前の調整手続きを終えており、実現に向けた具体化の段階に入っている。
そして、最大の課題である磁気浮上式リニアの技術開発についても、二○○五年三月に、国土交通省の実用技術評価委員会から「リニア実用化に向けた基盤技術は確立したと判断している」との評価が出され、昨年十二月には「二○一三年度までに実験線全線を建設し、二○一六年度までに実用化に必要な技術を確立すべき」との提言が出された。そして今年四月、JR東海は「二○二五年に首都圏と中京圏のあいだで超電導リニアモーターカーによる中央新幹線の営業運転開始を目指す」と発表した。いよいよリニア中央新幹線も現実のものとなってきたのである。
さらに、六月に国土交通省交通政策審議会航空分科会から、「今後の空港及び航空保安施設の整備及び運営に関する方策について」の答申(戦略的新航空政策ビジョン) が示された。成田空港および羽田空港の今後のあり方について、「成田は国際線の、羽田は国内線の基幹空港である」との基本的な役割分担は堅持したうえで、「首都圏における両空港を一体的に活用していくため、両空港間のアクセス改善等を図りつつ、旅客と貨物の円滑な移動を確保する等、両空港の有機的連携を強化していく必要がある一とされた。 相変わらず成田と羽田の役割は旧来のままであるが、空港やリニア開発を取り巻くこうした状況の変化は、「羽田・成田リニア新線構想」を現実のものへと導く契機になりうると確信している。
加えてもう一つ、この構想には効力がある。地球温暖化が喫緊の課題となっているいま、モーダルシフト(環境負荷の小さい交通手段への転換)は不可欠である。この六月に開催されたハイリゲンダムサミットにおいて、地球温暖化対策について「二○五○年までに温暖化ガスの排出量を少なくとも半減させることを真剣に検討する」ことで合意し、世界は「京都議定書」後の新たな枠組みづくりに動き出すこととなった。
現在、日本のCO2排出量は京都議定書の基準年である一九九○年を上回る状況が続いており、その対策は、将来の世代に良好な環境を引き継ぐため、待ったなしの状況となっている。日本におけるCO2の排出量のうち約二割を運輸部門が占めており、そのうち約九割が自動車によるもので、貨物自動車ではCO2削減が進んでいるものの、自家用自動車のCO2の伸びが著しく、その排出量は運輸部門全体の半分を占めているとのことである。
地球温暖化対策の面からは、自動車単体対策や道路ネットワーク整備などの交通流対策もさることながら、貨物自動車から鉄道・海運へのモーダルシフトや自家用自動車から公共交通機関へのモーダルシフトが、自動車走行量の削減に直接繋がるとともにCO2排出量の少ない交通機関に転換されることから、最も効果的な施策の一つである。
その意味からも、リニアモーターカーは、騒音や振動も少なく、CO2についても、乗客一人を一キロメートル運ぶ際に排出される量は航空機の半分以下、乗用車の約三割であり、地球環境にも配慮した新時代の高速交通機関である。この構想が実現すれば、首都圏における人の移動や物流が自動車からシフトし、CO2削減と首都圏の渋滞緩和につながることは間違いない。
なお、「羽田・成田リニア新線構想」のような都道府県域を越えるビッグプロジェクトの推進は、本来的には国の役割であろうが、われわれ首都圏の広域自治体としても、との「羽田・成田リニア新線構想」を首都圏共通の最重要政策課題として位置づけ、民間のアイデアを募りながら、八都県市首脳会議や首都圏連合フォーラムの場などで協議して合意形成を図り、その実現に向けて国と検討に入りたい。
そのうえで、私がかねてから提唱し、国や政党においても検討が進められている道州制が実現すれば、こうした広域課題についても、権限と財源をしっかりもった道州が主体的に参画し、意思決定や国との調整などに、よりスピーディに対応することが可能となることは間違いない。首都圏にとっては待ったなしの重要課題である「羽田・成田リニア新線構想」を進めるためにも、道州制の実現にも積極的に取り組んでいきたい。
あらためて訴えるが、この両空港を結ぶ首都圏リニア構想は、①首都圏の空港機能の強化・充実、②首都圏住民の空港アクセスをはじめとする利便性の向上、③首都圏の業務核都市の育成、④モーダルシフトによる地球環境保全への貢献、という四つの大きな課題を一挙に解決できる首都圏再生のための絶妙な切り札なのである。数年前までは夢としか語られなかったものが、いま、現実のものとして議論を始める時期を迎えている。

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