論文

拝啓 シュワルツネッガー知事
自動車メーカーへの損害賠償請求で脱石油社会は可能か

電気自動車普及という神奈川から世界への発信

自動車メーカーとの対決ではなく協働で

なぜEVなのか、なぜ神奈川なのか

普及に向けた多様なインセンティブ

地球環境改善の先駆けとして21世紀の自動車社会を創造

電気自動車普及という神奈川から世界への発信

十一月初めに行われた米力リフォルニァ州知事選挙で、現職のアーノルド・シュワルッェネシガー氏(共和党)は、民主党のフィル・エンジェリデス候補に大差をつけて再選を果たした。全米に共和党への逆風が吹く中で、民主党との大胆な妥協という超党派的な政治手法に転換したことが功を奏したようだが、まずは当選への祝意を表する。さて、シュワルツェネシガー知事のカリフォルニア州は、二○○六年九月二十日、地球温暖化や大気汚染の原因となる自動車の排気ガスが数十億ドルの損害を発生させたとし、自動車メーカー大手六社(GM、フォード、トヨタ、ダイムラークライスラー、ホンダ、日産)を相手に損害賠償請求訴訟を起こした。大気汚染と地球環境の悪化原因は、自動車メーカーにあるという理由からだ。自動車メーカー側はこれまでも排気ガス規制の法的範囲内で対応してきており、「よりクリーンでエネルギー効率のよい自動車をすでに製造している」との声明を発表したが、突然の提訴は彼らにとって青天の霹靂であり、とても納得できる話ではなかったであろう。裁判を受けて立つ構えを見せている。カリフォルニア州は、これまでも環境保護には熱心で、シュワルツェネッガー知事は、「環境保護で世界をリードする」と意気込んでいる。二○○四年には乗用車やトラックの温室効果ガス規制を全米で初めて導入し、今回の提訴直後の二○○ 六年九月二十七日には、温室効果ガスの包括的で大幅な排出削減を義務づける、これまた全米初の州法案にも署名した。その内容は二○二○年までに、温室効果ガスの排出量を現状から二五%削減するというもので、発電所や工場など大規模事業所に二○一二年から具体的な排出削減策の実施を義務づけるものだ。
たしかに厳しい規制と損害賠償請求という「ターミ・ネーター」ばりの強硬手段は、遅々として進まない地球温暖化対策を強力に進める方法の一つではあろう。しかし、自動車産業を非難し、対立することだけでは、今後の地球温暖化対策の根本的な手段とはならない。二○○四年の温室効果ガス規制に対しては、自動車メーカーなどは裁判を通じ、規制に反対する動きを見せているし、今回の損害賠償請求訴訟にしても、勝訴して請求が認められたとしても、それで地球環境の改善につながるかと言えば、事はそう短絡的ではない。失礼ながら、シュワルツェネッガー知事の手法は、ネガティブで非生産的行為と言わざるを得ない。
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自動車メーカーとの対決ではなく協働で

これに対して神奈川県は二○○六年九月十四日、地球環境保全のために自動車メーカーと協働するポジティブで生産的な手法に挑むことを宣言した。わが国は、二○○五年二月の京都議定書の発効により、二○○八年から二○一二年までの「第一約束期間」の温室効果ガス排出量を、一九九○年と比較して六%削減する義務を負っているが、神奈川県においても大気汚染と地球環境への取り組みは緊急の課題である。これまでも神奈川県では、日本で初のローカルアジェンダである「アジェンダ21かながわ」を採択し、県民、企業、NPO(特定非営利活動法人)などと協働して地球環境保護に取り組んできた。
しかしながら、二○○三年末の神奈川県全体の二酸化炭素排出量は、一九九○年と比較して一八・五%増加しており、このうち運輸部門からの排出量も大幅に増加している。首都圏に位置するため自動車交通量が多く、すでに実施しているディーゼル車規制は大気環境の改善に一定の効果を上げているものの、今後も自動車の排出ガス対策に取り組んでいかなければならない状況に変わりはない。そこで神奈川県として推進を決定したのが、「電気自動車(Electric Vehicle=EV)の開発・普及」構想である。この構想の柱は、自動車メーカーに規制を強いるばかりではなく、彼らと協働して環境問題に対処していくということである。現代社会では、産業活動においても個人の生活においても車は欠くことができない。そして企業はその利潤追求によって社会貢献をなし得る。そうであれば、自動車メーカーの利潤追求が個人生活の利便向上に供し、環境対策にもつながるような新たな方途を探す必要がある。すなわち、石油エネルギー(化石燃料)に依拠した移動体から脱石油エネルギーの移動体にシフトしていくことである。
EVは環境への負荷がきわめて少ない移動体だが、まだ市場経済の中で生産ベースには達していない。これを生産ベースに乗せることができれば、あとは経済原理にしたがって市場で普及していくはずだ。そのためのインセンティブを与えたい。こうした考えから、産学公が連携してEVを開発・普及させ、自動車環境技術の革新をはかり、神奈川から世界に向けてEVの開発。普及による大気環境の改善を推進するモデルケースを発信していくというものである。
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なぜEVなのか、なぜ神奈川なのか

自動車メーカー各社は、低燃費の環境対応車の技術開発を競って推進している。バイオエタノール車、ハイブリッド車、燃料電池車、天然ガス車、そしてEVである。ハイブリッド車はすでに生産ベースに乗り、街中で普通に走っている姿を見かけるようになった。技術開発のレベルはさまざまだが、自動車メーカー各社が環境負荷の低減を実現するため真剣に取り組んでいるのは間違いない。彼らもまた、未来を見据えて企業としての生き残りに必死なのである。
こうした中で、なぜ神奈川県はEVの開発・普及という選択をしたのか。ハイブリッド車は、燃費がよく走行距離も長いが、ガソリンを併用することから、完全に脱石油とはならない。燃料電池車は、まだまだ技術的に乗り越えなければならないハードルが多く、実用化には程遠い。トウモロコシやサトウキビから作られるエタノールは原材料の調達の点で難がある。
では電気はどうか。電気は化石燃料だけでなく、さまざまなエネルギー資源から生産される。電気だけを動力とするEVは原油価格の高騰による影響が少なく、走行に要するコストが低い。何よりEVは走行時の排出ガスがゼロで、二酸化炭素排出量はガソリン車の三分の一程度しかない。騒音も少なく、現在開発されている環境対応自動車の中で最も環境性能・省エネルギー性能に優れている。EVこそ究極のエコカーと言ってよい。
広域的な環境問題について、なぜ一地方自治体である神奈川県から発信するのかという疑問もあるだろう。なぜ国ではなく、地方自治体がEVの推進に乗り出すのか—。これまでEVの普及が世界的に盛り上がったことが二度ある。一回目は一九七一年のアメリカでのマスキー法導入時。二回目は一九九○年のカリフォルニア州でのZEV法の導入表明時である。ZEV法は、同州で販売される車の一定割合は排出ガスがゼロ(=EV)であることを義務づけるものであった。
過去二回の盛り上がりに際しては、日本国内でも都市の大気環境改善の決め手になるとしてEVに注目が集まり、とくに一九九○年代には大都市自治体が熱心にEVの導入に努めたという経緯があるが、数年でその機運はしぼんでしまった。原因はいくつかある。
まず当時の電池は鉛蓄電池やニッケル水素電池で、電池性能に難があるにもかかわらず、車両価格が高価でユーザーの理解を得られなかった。何より「電池切れ」のリスクを補う急速充電スタンドの設備費が高いことなどから設置数が少なかった。こうしたインフラ整備を全国で一気に進め、普及を図ることは現実的に困難だった。
そこでEVのニーズが見込める一定の地域で、普及に必要な諸条件をクリアする総合的な政策を重点的に推し進めることができればEVの開発・普及を進められるのではないか。その過程で試行錯誤を繰り返しながら地域における普及モデルを確立し、そのモデルを全国に拡大していく方法が望ましいと考えたのである。
ではなぜ神奈川県なのか。実は、神奈川県にはEVの研究。開発に適した条件がすべて揃っているのである。県内には日産、三菱、いす茸、マツダ、スズキと自動車の生産や開発拠点が集結し、NECラミリオンエナジー、ジーエス・ユアサコーポレーションなど、EVの中核技術であるリチウムイオン電池の開発拠点もある。リチウム電池は、鉛やニッケルとは異なり、放電しにくく充電性能が高い。EVの性能アップにはなくてはならないものである。さらに東京電力技術開発研究所、慶応大学電気自動車研究室、神奈川工科大学自動車システム開発工学科など、自動車技術、電力関連の研究開発を行う大学、研究所が集結している。
ちなみに慶応大学電気自動車研究室は、リチウムイオン電池を動力とする八輪の高速車エリーカの開発で、この分野の先導的な役割を果たしている。神奈川県に所在するこれらの機関が機能的に連携すれば、EVの研究。開発を一体的、総合的に進めることが可能である。
首都圏に位置する神奈川県は、商品の配達や通勤、買い物などの日常生活で、車を比較的近距離で利用するユーザーが多い。そうした点からもEVの普及が適したモデル県となることができる。「神奈川モデル」が、全国の同様自治体の取り組みに何らかの参考となれば、結果的に国全体の大気環境の改善に資することにもなり、シュワルツェネシガー知事による米カリフォルニア州の政策とは大きく異なる、自動車メーカーとの協働による環境保護政策の先進モデルともなろう。
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普及に向けた多様なインセンティブ

それでは具体的な推進策としてどのような施策=マニフェストが考えられるか。他の自治体にも応用してもらえるものをふくめ以下に列挙してみる。
①EV普及推進協議会(仮称)の結成。自動車メーカー、電池メーカー、電力供給者、大手ユーザー、大学。研究機関などに働きかけてEV普及推進協議会を結成する。EV導入の計画づくりや急速充電スタンド設置の方策、EV普及のためのインセンティブ方策などを協議し、需要と供給を掘り起こしていく。
②市販後五年以内に(神奈川)県内三千台の普及をめざす。二○○六年十月十一日、三菱自動車工業が研究車両用のEVを初公開した。市販化の前倒しも示唆したというが、他のメーカーの追随を大いに期待している。EVの市販後は、神奈川県は公用車百台程度を率先導入し、市町村や大手ユーザーにも導入を働きかける。そして導入のインセンティブとしてEVにかかる自動車税、自動車取得税の税率を九○%程度、大幅に減額することも検討していく。加えてEV購入時に現行の国の補助金八十万円に上乗せして、県からも四十万円補助することも考える。
③急速充電スタンドの整備。EVは各家庭にある電源コンセントにつないで充電できる。簡単ではあるが、フル充電には八時間程度必要となる。これは車を使用しない時間帯(たとえば深夜)に充電することで支障は少ないと思われるが、一回の充電で可能な連続走行距離は八十キロ程度とあまり長くない。EVを普及させるには出先でも不安なく、しかも短時間で充電できることが絶対条件で、街中でスピーディーに充電できる施設の設置が不可欠となる。
そこで県や市町村の公共施設の敷地に電気スタンドを設置し、県内に百五十基の急速充電スタンドの整備をめざす。この設置数は県内都市部の三キロに一基の割合である。さらに自動車メーカーや大手ユーザーの事業所など民間施設に対しても急速充電スタンドの設置を働きかける。
④EV使用のインセンティブ。EV利用時の経済性を高めていくため、県営有料駐車場料金の割引を検討する。高速道路のETC利用の料金割引を国や道路会社に働きかけていく。かりにEVは料金半額とすれば、相当なインパクトがあるだろう。
—こうした各種インセンティブを用意し、一体的・総合的なパッケージとして打ち出していくことで、ガソリン車と比べて非常に割高な(現状で約三倍から四倍)車両本体価格を、購入後の維持、走行などに要するコストも含め圧縮可能にしなければ、いくら環境保護の重要性を訴えても普及は難しいだろう。価格差を圧縮し、EVを購入するユーザーの負担を軽減し、需要を掘り起こしていくために行政は可能なかぎりの方策をとる必要がある。
ユーザーの需要が高まればメーカーの量産につながり、生産コストも下げることができる。つまり開発から普及への橋が架かるのである。この橋を、県が主導して整備するのが構想実現の要となる。神奈川県は九月十四日にEVの普及推進構想を打ち出して以来、自動車メーカー、電池メーカー、電力供給者、大学などに協力を要請してきた。その結果、二○○六年十一月十六日にユーザー代表、国、市町村も加えて協議会結成にこぎつけることができたのは大きな一歩だと思っている。
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地球環境改善の先駆けとして21世紀の自動車社会を創造

経済社会をコントロールするには、たしかに規制や制裁が必要であろう。しかし、同時に経済社会の発展は技術革新への挑戦が不可欠である。二十世紀の自動車社会をリードしてきたアメリカの功績は大きいが、技術革新が滞り、規制と制裁に頼る現状を見ると、将来においてもアメリカが自動車社会をリードするという展望は開けない。
アジアでは中国やインドの経済発展が著しい。十三億の人口を有する中国、十一億人のインド。この二国で世界の人口の三分の一を占めるわけだが、二○○四年末の国別自動車保有台数を見ると、中国は二千七百万台、インドは一千三百万台にすぎない。アメリカの二億三千七百万台、日本の七千五百万台と比較してもまだまだ少ない。
しかし、今後両国においてさらにガソリン車が普及することになれば、排出ガスの発生源は飛躍的に増大し、大気汚染が深刻化して、地球環境は壊滅的な打撃を受けることになるだろう。その前に、自動車技術のスタンダードをガソリン車から非ガソリン車に代替することは喫緊の課題である。
米カリフォルニア州は二○○六年七月、化石燃料への依存を低減させるために州内でのバイオ燃料増産計画を発表した。その内容は二○二○年までに州内のエネルギーの四○%をバイオ燃料から造り出すというもので、年間三千五百万ガロンのエタノール生産体制の整備を進めている。この計画により、公害の低減や温室効果ガスの削減だけでなく、州内の農業活性化をも目的にしているという。環境保護で剛腕とも言えるリーダーシップを公言しているシュワルツェネシガー知事らしい大胆さで、州の特性を十分踏まえたプロジェクトである。自動車メーカーを一方的に悪玉にする「ターミネーター」的な損害賠償請求訴訟はいただけ
ないが、このバイオ燃料増産計画には大いなるエールを送りたい。
最後に、私が推進をめざすEVの普及が街づくりそのものを変革させる可能性のあることを述べておきたい。排ガスがゼロであるから、EVはホテルやショッピングセンターなどの建物内や地下街でも利用できる。高齢社会を迎え、ショッピングセンターの中にバス停を設置することが可能になれば、高齢者の外出にも高いインセンティブを与えられるだろう。さらに車庫や各家庭の屋根に太陽光パネルを設置し、太陽光発電で得た電気をEVに活用すれば、究極のクリーンエネルギー車となる。
EVの開発には、リチウムイオン電池の高性能化、小型化、低価格化など、まだまだ困難な技術的課題があり、その普及のための条件整備も並大抵なことではない。しかし、それに取り組んでいかなければならないことは明らかである。神奈川県から、産学公の連携によってEV開発・普及を強力に推進し、地球環境改善の先駆けとして世界に発信していくことができれば、それはひとり神奈川にとどまらぬ、日本という国の可能性を世界に示していくことにもなるだろう。そうした心意気をもって取り組んでいきたいと考えている。

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